BitSharesの仕組みを頭でちゃんと理解するためには、根幹となる二つの重要な市場があること、それぞれの市場がどのような役割を果たしているかを理解すること、またそれぞれの市場にはどのような考えを持った参加者がいるかを全て同時に理解する必要があります。
「卵が先か鶏が先か」という話になりますが、全て同時に理解しないと全貌はつかめません。今回のトピックは重要なので読み飛ばさず、理解できるまで何回でも読み直してみましょう。では、始めていきましょう。
BitSharesを動かす二つの市場
BitSharesのエコシステムがスムーズに機能するために重要な二つの市場があります。
それは:
・BitUSD/USD市場(FiatとBitAsset間の取引)
・BTS/BitUSD市場(BTSとBitAsset間の取引)
になります。
短期的にはBTS/BTCの市場も重要かもしれませんが、長期的にはBTCと切り離されたとしても存在し続けることができるエコシステムになるためには上記の二つの市場が最も重要な市場と考えます。
BitUSD/USD市場はゲートウェイの役割を果たす
BitUSD/USD市場はlegacy banking system(従来の金融システム)からcryptospace(仮想通貨の世界)を繋げるゲートウェイの役割を果たします。ゲートウェイは港のようなものだと考えてください。
USD資産を持った人が今後仮想通貨を利用して資産を管理したいなら、まずはゲートウェイに行って、USDをBitUSDに換金しなければなりません。逆に、BitUSDをUSDとして外に出したいのなら、「あなたの信用できるゲートウェイ」を使ってBitUSDをUSDに換金して、あなたの銀行口座に引き出せば良いのです。
ゲートウェイを介して資金をエコシステムの中に入れたり外に出したりする部分はRipple(リップル)と同じ考えですが、openledgerなどのゲートウェイではBitUSDの管理にBitSharesネットワークのブロックチェーンを利用しているため、一旦BitUSDに換金してしまえば、その後ゲートウェイが潰れようとバックれようと、BitUSD資産はブロックチェーンに書き込まれているため、固く守られるわけです。
そういう意味ではBitSharesのブロックチェーンで資産を管理しているゲートウェイは内部の台帳を使って資産を管理しているゲートウェイより圧倒的に安心です。カウンターパーティ・リスクを最小限にとどめることができるからです。
USDをゲートウェイに振り込み、BitUSDに換金するまでのわずかの間はカウンターパーティ・リスクが伴いますが、BitUSDに換金した瞬間にそのトランザクションはブロックチェーンに書き込まれるので、カウンターパーティ・リスクがなくなります。
BTS/BitUSD市場はBTSを使ってBitAssetを作り出す役割を果たす
BTS/BitUSD市場はBitSharesネットワーク内のDecentralized Asset Exchangeの中に存在します。
この市場がなぜ大切かというと、この市場が存在しないとBitAsset自体がこの世に存在できないからです。
BitAssetの仕組みについての詳しい解説はBitAssetが成り立つ仕組みの記事を見て頂くとして、ここでは簡単に説明していきます。
需要と供給のバランスが変化することによって、仮想通貨の価格は変動しています。そこでBTSは上がるだろう(BitUSDは下がるだろう)と考えている人の中でBitUSDをショートする人が現れます。これらの人は自分の保有しているBTSの価値を担保にBitUSDを作り出し、そのBitUSDを人に貸し出しているのです。
ですから、BTS/BitUSDの市場があることでBitUSDが世の中に供給されていくのです。
BitUSD/USD、及びBTS/BitUSDの市場参加者のそれぞれの思惑
BitUSD/USD、またBTS/BitUSDの市場にはBitUSDホルダー、BTSの購入者、それとBitUSDをショートする者の三タイプが存在します。
では、それぞれのタイプがどういう思惑でそれぞれの行動に出ているかを解説していきます。
BitUSDホルダー
まず、前提条件として、BitUSDはどんなに安くなっても最低1ドルの価値を保つというルールがあります。その理由はBitSharesのMarket-Pegged Assetsが強化されたの記事をご覧ください。
また、BitUSDの購入者は$1ちょうどどころか、プレミアム(例えば$1.05)を支払ってでも、1BITUSDを手に入れたいと思っていることが挙げられます。
では彼らはなぜプレミアムを支払ってでもBitUSDを購入したいと思っているのでしょうか?理由は下記のようなものになります。
1. BTSや他に持っている仮想通貨の価格が下落しているからヘッジしたい。
2. Cryptospaceの中にいながらして、Fiat(法定通貨)の安定性が欲しい。
BitUSDの購入者は保有している仮想通貨の価格が下落しているから損失が出ないようにBitUSDに変えたいと思っているか、仮想通貨の世界にいながらにして、ドルの安定性を求めているため、BitUSDを購入しようとします。BitUSDホルダーの選択肢
BitUSD購入後、BitUSDホルダーには3つの選択肢があります。
1. そのままBitUSDとして保有しておく。
2. 市場でBitUSDを売り(例えば$1.04などで売り払い)、FiatのUSDに戻す
3. Forced Settlementをリクエストする。これは現在のBitUSD/USDの市場価格に関係なく、BitUSDを$1分のBTSにいつでも換金できる権利のことを指します。
いずれにしても、上記の例で言えば($1.05でBitUSDを購入した場合)、リスクは最大$0.05に限定されるので、通貨価値の安定性を求めているユーザー向けの仮想通貨になります。
BTSの購入者
BTSの購入者は基本的にBitSharesネットワークの基軸通貨であるBTSに好感を持つ、投資家か投機家です。彼らは手持ちのFiatドルを売って、BTSを手に入れたいと思っています。
では、BTSの購入者がBTSを購入したい理由にはどのようなものがあるのでしょうか?理由は下記のようなものになります。
1. BTSの価値が上がると思っている(BTS/BitUSD市場の価格が下がると思っているも言える)
2. Cryptospaceにとにかく入っておきたい
前述したように、BitUSDはどんなに安くなっても最低1ドルの価値を保つというルールがあるので、BTSの購入者は1 BitUSDを持てば、絶対に$1分のBTSを取得できることを知っています。
問題はFiatドルでBTSを直接購入するべきなのか、一旦BitUSDを買ってからBTSを購入するべきなのかという話になります。
この場合、BitUSD/USD価格にはプレミアムがついていることからして、Fiatドルから直接BTSを購入すると同じ量のBTSを購入するのに余分にお金がかかってしまうことが分かって頂けると思います。
したがって、Fiatドル保有者にとって最も安くBTSを購入する方法は「何とかしてBitUSDホルダーにForced Settlementをリクエストしてもらい、BitUSDを$1ちょうどで売ってもらう」のが一番良いのです。例を挙げます。現在、$1分のBTSが200BTSだとします。$1分のBTSをFiatドル建てで買うとプレミアムがついてしまいます。仮にプレミアムが$0.05だとしたら、 $1のFiatドルでは190.47BTSしか購入できません。
計算方法はこちら→ 1 / 1.05 x 200 = 190.47
逆に1BitUSDで$1分のBTSを購入したら200BTS手に入るので、$1ちょうどでBitUSDを調達し、BitUSDでBTSを購入すれば9.53BTSほど多くのBTSを取得できることになります。
このようなことから、FiatドルからBTSを購入を希望している者はなるべく安くBitUSDを手に入れたいので、$1、またはそれに近い価格に買いの指値を入れるインセンティブになるのです。
BTSのベア・マーケット時の挙動
BTSの市場価格が下落している場合、人は自己資産の価値を減らしたくないので、持っているBTSをなるべく高い値段でBitUSDまたはUSDに変えようとする力が働きます。
すると、BitUSDの需要が上がり、BitUSDの価格にプレミアムをつけてもBitUSDが売れるようになります。相場の下落が激しければ激しいほど、プレミアムが高くなり、$1ちょうどでBitUSDを買うことがだんだん難しくなっていきます。
BTSのブル・マーケット時の挙動
BTSの市場価格が上昇している場合、人は上昇している仮想通貨を持って利益を出したくなるので、保有しているBitUSDまたはUSDをなるべく高いうちにBTSに変えようとする力が働きます。
すると、BitUSDの需要が下がり、BitUSDの価格のプレミアムを下げていかないとBitUSDが売れなくなっていきます。しかし、前述した通り、BitUSDのforced settlementルールがあるので、プレミアムがなくなり、価格がちょうど$1まで下落することはあっても、それより下に下がることはありません。相場の上昇が激しければ激しいほど、プレミアムが安くなり、BitUSDの価格を下げないとBitUSDを売ることがだんだん難しくなっていきます。
BitUSDのShorter
BitSharesの市場ではBitUSDをショートする者がいます。
彼らがBitUSDをショートする理由としては下記のようなものがあります。
1. BTSの価値が上がると思っている(BTS/BitUSD市場の価格が下がると思っているとも言える)
2. BitUSD/USDで発生しているプレミアム分を利益にしたいと思っているショートポジションの選択肢
BitUSDショート後、彼らには2つの選択肢しかありません。
1.(無期限で)ショートポジションを保有する
2. BitUSDを市場で買い戻してポジションを決済する
BitUSDをショートする者はBTSを使ってBTSをロングしているのと意味は同じなので、レバレッジが掛かってしまっています。したがって、BitUSDのショートは「投機」に属します。
関連記事: BitSharesでShort BitUSDとBuy BTSの違い
ショートポジションのリスク
1. 十分な証拠金を入れておかないと強制的に決済されてしまう。
2. Feed Priceに触ると強制的に決済されてしまう。Feed Priceまでスプレッドが存在することをあらかじめ確認しておく必要があります。
3. BTS/BitUSDの為替レートの変動以外にも、BitUSD/USDのプレミアムのリスクの変動による損失が発生するリスクを知っておく必要があります。場合によっては利益になることもあるので一概に悪いとは言えませんが、損益を決めるポイントが2つあるということを理解しておかないと、損失が思ったよりも大きくなることがあります。
まとめ
いままで解説したコンポーネント全てが上手く絡みあうことでBitSharesネットワークが成り立っています。
どれか一つがなくなったらエコシステムが正しく機能しなくなるので、それぞれの役割はちゃんと理解しておくようにしましょう。